たまに遺産分割前に相続財産を処分してしまったとか、処分しようと考えているといったご相談を受けることがあります。
今回は遺産分割前に相続財産を処分してしまったときの取り扱いについて税務と民法に分けてまとめてみたいと思います。
遺産分割前に相続財産を処分してしまったときの税務の取り扱い
まず税務の取り扱いですが、遺産分割前に相続財産を処分しようと、その相続財産が相続税の課税対象になることに変わりはありません。というのも、あくまで相続税は相続開始時点の相続財産に対して課税されるためです。
注意点としては相続財産として計上漏れをしないことはもちろんですが、他に次のような点が挙げられます。
- 遺産分割の対象からは除外しないこと
- 継続所有要件のある特例に注意
- 譲渡所得税の課税に注意
順に解説すると、まず、相続税の各種特例は遺産分割が完了していないと適用が受けられないことが多いので、遺産分割前に処分したからといって遺産分割の対象から除外してしまうと、各種特例が受けられないといった事態も想定されます。
また、小規模宅地等の特例では申告時点まで継続所有が必要なことがあります。処分する財産によっては申告前に処分してしまうと特例が受けられないことがあるので注意が必要です。
最後に処分した財産によっては、譲渡所得税の申告が必要になります。一応法律的には遺産分割前に売却したとすると相続人が共同で売却したとして譲渡所得税も相続人みんなで申告が必要という話になるのが原則ではありますが、実務でそこまですべきかはケースバイケースかなと思います。
このように税務的には処分の内容等によってはリスクがあるので注意しましょう。
遺産分割前に相続財産を処分してしまったときの民法の取り扱い
民法の取り扱いは、まず基本的に遺産分割時に存在する財産が遺産分割の対象になるという考え方が前提としてあります。
そして、遺産分割前に相続財産が処分された場合は、相続人全員の同意があればその処分した相続財産を遺産分割の対象にできることになっています。
これは、仮に処分をした財産が遺産分割の対象にならないとなると、その処分をした人と他の相続人間で不公平が生じるため、このような取り扱いになっています。
そのため、一部の相続人が相続財産を処分したとすれば、その相続人を除いた他の相続人の同意があればその処分した相続財産も含めて遺産分割が可能となっています。
平等性を考えれば当たり前と言えば当たり前ですね。実はこの遺産分割前に処分された財産の遺産分割時における取り扱いは平成30年の民法改正で新しく明文化されました。
民法改正前はこのような規定がなかったわけで、規定がないということは遺産分割時に存在する財産が遺産分割の対象という考え方に立って処分された財産は遺産分割の対象にならないと解されていました。
まあ、実務の現場、とりわけ税理士だけが関与する相続税の申告では、税務の取り扱いに合わせて処分してしまった財産も遺産分割の対象にしていたんじゃないかなと思いますが、どうなんでしょうか。
なお、遺産分割前にすべての相続財産が処分された場合は、遺産分割自体が行えないので処分した財産を遺産分割の対象にできないと解されています。これは上述した取り扱いはあくまで遺産分割がされることが前提であり、相続財産がなければ遺産分割自体が行えないと考えるためです。
これも、実務でこんなことがあればなんやかんや分割内容を決めてもらって相続税の申告をすることになる気がしますがどうなんでしょうかね。相続税の申告が想定されていないのかもしれませんが。
まとめ
今回は遺産分割前に相続財産を処分してしまったときの取り扱いについて税務と民法に分けてまとめてみました。
民法改正で税務と民法の足並みが揃ったので、税理士としては申告がやりやすくなったという理解でいいかなと思います。
もし、遺産分割前に相続財産を処分する場合は特に法律的に制限があるわけではありませんが、税務上は処分する財産によってはリスクがあるのでその点は注意しましょう。また遺産分割や申告前に処分してしまえば相続税の負担がなくなるわけでもありませんのでその点も注意しましょう。
■編集後記
昨日、Audibleで聴き終えた書籍ですが、タイトル通り闇が深いですね。
以前に農協での税務相談を担当したことがありますが、そこでもいろいろ違和感を感じたのをよく覚えています。
やっぱり囲い込みとかよくないと思うのですが、相互依存だからな~と思ったりしたと記憶しています。
■一日一新
農協の闇 Audible