某赤い銀行の行員が貸金庫の金品を4年半に渡って盗み続けていたというニュースを初めて聞いた時は驚きましたが、その容疑者が逮捕されたそうです。
そこで、今回は従業員が横領をした時の税金の取り扱いについて簡単にまとめてみようと思います。
※件の事件は横領罪ではなく窃盗罪として扱われているようですが、違いもよく分かりませんしこの記事では横領で通しています
会社は横領で損をしたけれど利益が増える
従業員が横領をした場合、会社は横領で損をしましたが、税務上はとりあえず利益が増えるような処理(修正申告)をするのが一般的です。
例をだすと、従業員の横領が発覚した場合、横領による損失を認識すると同時に、横領がなければ会社に帰属していた収入を会社に帰属するものとして処理することになります。
仕訳で示せば次のようなイメージになります。
損失 / 売上
また、外注費(経費)が架空のもので、実は取引実態のない相手に払っていてなんやかんや従業員にお金が回っていたようなケースだと、税務上はその外注費をなかったものとして扱います。
この場合は次のような仕訳になります。
損失 / 外注費
どちらのパターンにせよ、同額の損失と収入(経費のマイナス)が計上されますので、損益はプラマイゼロとなります。
ここまでは、なんとなく理解できると思いますが、やっかいな考え方がその次で、税務の世界だと、同時に従業員に対して横領した金額の損害賠償請求権が生じたと考えることになります。
仕訳で示せば次のようなイメージです。
損害賠償請求権 / 収入
これら2つの仕訳を合わせると、結果的に会社は横領で損失を生じていますが、利益が増えたという処理をすることになります。
そして、これらの処理は基本的に横領が生じたタイミングで行うことになります。
つまり、横領が行われた期に遡って修正申告をすることになります。
なお、損害賠償請求権が生じるといっても、横領をした従業員からお金を返してもらえることなんてないだろうと考える人も多いと思います。
そしたら、その請求権を回収できないものとして損失を計上すれば、それで損益はプラマイゼロになるだろうと。
もちろん、税務上請求権があることになっても、実際はそのお金が帰ってこないことがほとんどだと思います。
そして、帰ってこないお金について損失を計上することは問題ありません。
ただ、この損失の計上については、上述した2つの処理とは別にこれから回収できないことを確認した上で損失が確定すると考えますので、それぞれを計上する期がズレることがほとんどになります。
したがって、基本的には会社は横領で損失を被りましたが、とりあえず利益が増えたような処理をして、そのあとに横領で生じた損害賠償請求権を損失に計上するような処理を検討していく流れになります。
わたしも最初このような処理をすることを勉強した時は受け入れ難いなと思いましたが、税務上はそのように考えるようです。
なお、従業員に横領疑惑が発生した場合、そもそもその横領に関係する収入が会社に帰属せず従業員に帰属するとなれば、会社側でこういった税務上の処理云々は考えなくてよくなります。
また、横領をした人が役員だと、損害賠償請求権の放棄をする際に、それが役員報酬に該当するといった論点にも発展することがあります。
とにかく、会社で横領が生じてしまったときの税金の取り扱いって複雑なわけですね。
某赤い銀行のケースだとどうなるのだろう
では某赤い銀行のケースだとどうなるのでしょうか。
せっかくなので考察してみましょう。
まず、どうもこの貸金庫に入った金品等については銀行は一切把握をしていないようです。
そうすると、銀行の貸借対照表に負債(預り金とか)で計上はされていないのだと思います。
そして、仮に今回の横領があくまで行員だけに責任があって行員自身が貸金庫利用者から損害賠償を求めらるということに終始するのであれば、銀行としては特に損失もないわけで、その後の損害賠償請求権云々の話にも発展しないのかなと思います。
ただ、どうでしょう。
さすがに銀行に責任がないとはならないような気がするのですが。
仮に銀行が貸金庫利用者から損害賠償を求められてそれに応じるという流れで考えてみましょう。
そうすると、たぶん仕訳の流れは次のとおりかなと思います。
損失 / 未払金
損害賠償請求権 / 収入
この処理を横領が生じた期に遡ってしていくのかなと思います。
今回のケースだと、銀行は本来払わなくていいものを払う羽目になるという格好なので、損失の計上と同時に収益の計上漏れや経費の否認をする必要はないと思います。
結果的に損益のプラマイはゼロで税務上の修正も基本的に不要になるのかなと思います。
※上場会社として会計でどう処理すべきかは謎ですが
そして、どのみちこの行員は銀行に対して横領したお金の弁済ができないと思うので、銀行としてはその回収を諦めることになると思います。
ただ、その損失を計上するタイミングは、一般に行員が自分のすべての財産を処分等することが求められるはずなので、それが終わった上での計上になるはずです。
結果的に相応のタイミングでの損失の計上になるのかなと思います。
まとめ
従業員に横領があると、税金の世界でもいろいろと大変です。
実務だと税務調査の場で従業員の不正が発覚し、こういった処理の流れについて調査官から説明され、なんか納得できないとなることが多いようです。
そりゃ、不正で会社が損を被っているのに、修正申告で税金を納めてくださいとなれば、なんで?となるのかなと思います。
損害賠償請求権の実務は難解です。
■編集後記
某赤い銀行の株価を見ていると、株価には今回の事件の影響はないような雰囲気ですね。
そうすると、結局悪いのは行員で銀行は貸金庫利用者にお金を返すことはないということでしょうか。
まあ、どれくらいの金品が預けられていたか証明ができなければ返すこともできないという理屈もある気がしますしどうなんでしょう。
それとも十数億程度の被害なら株価に影響がないという理解なのでしょうかね。銀行の規模を考えるとそんな気もしますが。
■一日一新
ねぎinからあげクン